たった一言。
この言葉を口にするまでに、どれだけ時間がかかっただろう。
ふと、窓際のカーテンが揺れた。
音もなく入り込んだ夜風が、あたしたちの肌をやさしく撫でて通り過ぎていく。
「あの……だから……この前は、あたし……」
伝えたいことがまだたくさんあるのに、涙ばかりが溢れて肝心の言葉がちっとも出てこない。
……早く……何か言わなきゃ。
気が急くあまり、言葉がさらに空回って。
だけど、その焦りすら大事に受け止めるように、本多くんがあたしを抱き寄せた。
住む世界が違うと思っていた。
手が届かない人だと思っていた。
だけど今、その体温がすぐそばにある。
鼓動が、こんなにも近くで響いている。
「今の言葉、聞かなかったことにはしてあげられないけど……いいの?」



