「おい、萌葉」



灰田くんを隔てて、三成の声が聞こえた。


絶対……来ると思ってた。

人の痛みにはいち早く気づいて駆けつける、そんな人だから。



「逃げんな。 他の男に簡単に甘えてんじゃねぇよ」


大丈夫か?とか、心配すんな、とか。
第一声が慰めの言葉じゃないところも三成らしい。



「それともお前の好きって、そんな軽い気持ちだったのか」


ドキリとした。

……違う。

軽い気持ちじゃないから、こんなに傷ついて、情けない顔して、見られたくない、逃げたいって思ってる。


でも三成は、そんなあたしの気持ちを理解した上で言ってる。


ゆっくり顔を上げると、真っ直ぐな瞳に射抜かれた。



「……こじれても知らねぇぞ」


そうつぶやくと、三成は灰田くんに向き合った。



「……いいか、俺は見なかったことにしてやる。あとのことはお前が判断しろ」


それからぱっと手を離して背を向ける。

金色の髪が夜風で自由に揺れていた。