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灰田くんの腕があたしの背中に回っている。
すっぽりと包みこむように。

離れようとすれば、あっさりほどいてくれそうなやさしい力。


だけど、目の前の体が本多くんとエナさんを隠してくれるから──見たくない世界から逃してくれるから、されるがまま動けずにいた。


みんなはきっと、本多くんとエナさんに夢中で、灰田くんとあたしがこうしてることなんて気づいていない。


気づいているとすれば、それは三成か、中島くんか──。



ああ……やだな。
心の中でそうこぼす。


三成も中島くんも、あたしの気持ちを知っているから。

笑顔をつくっても強がりにしか映らない。素直に泣いても、気をつかわせてしまう。



「ね、ふたりで抜け出そ」


耳元で甘やかすように囁かれた。


ここから逃げたい。

誰の目も届かない場所に行きたい。
本多くんや三成、中島くんに迷惑をかけたくない。


……このままどこかへ連れ去ってほしい。


そんな弱い心が勝ってしまう。



「……う、ん」


声にならないくらいの小さな返事。


だけどこの近い距離。
灰田くんに届けるだけなら、それで十分だった。