黒蘭。
黒は偽りの黒。大切なものを守るために自分を隠して世界を染め上げるための……――。
「もちろん礼儀は大事だよ。 特に挨拶は物事をうまく進めるための基盤となる。“悪"に触れるときは特にね。敵意を悟られないように近づき、最もいいタイミングで崩す。さっきも言ったけれど、まずはずる賢さを磨くことだ」
直後、煙草に火がともる。
「きみたちに押し付けるつもりはない。これは俺の正義だからね。守りたいものがあったり、どうにもならない世界をどうにかして変えてやろうと強い意志のある奴に、こういう生き方もあるってことを教えてあげようと思っただけだ」
ゆっくりと吐き出された白い煙が宙を漂った。
「知らなくてもいいんだよ。知らないほうが楽に生きられる。ただ、自分の孤独と引き換えに何かを守る人間は格好いい。佳遥さんを見て俺はそう思った……それだけの話」
慶一郎さんはその言葉を最後に身をひるがえすと、車に乗り込んだ。



