慶一郎さんがそう言うと、皆はぎこちなく顔をあげてひかえめな視線を送る。
「いいか君たち。世の中にはね……偉い人間ってのがいる」
少し間をあけて、話は静かに切り出された。
「それはもう理不尽なくらいに。もちろん、俺なんて足元にも届かないくらいの圧倒的権力を持つ人間がね」
誰ひとりとして私語をする人はいない。
瞬きをするのも忘れているんじゃないかというくらい、真剣な面持ちで耳を傾けている。
突然始まった慶一郎さんの話と、息をすることすら許されないような、この張りつめた空気感。
ついていけてないのは……多分あたしだけ。
「そういう人間が誰しも、表で目立っているとは限らない。むしろ逆の場合がほとんどだ。きみたちが見えている表の権力を盾にして、見えないように支配している」
それでも、何か大切なことを伝えようとしていることはわかった。
「その見えないものに興味があるなら、視ようとする力をつけろ。 情報は、持っている数が多ければ多いほど有利になる。ただし踊らされちゃいけない」
通る声を持っているわけでも、大きな声で話しているわけでもないのに、なぜか鼓膜を重く揺さぶる不思議な響き。



