なにかもっと気の利いた言葉を返さなくちゃと、焦る思考を遮るように
「着いたよ」
と、運転席から慶一郎さんの声がかかった。
数週間ぶりの黒蘭。
相変わらず大きい建物。
ただ、
この前と違うのは──────。
「お疲れ様です!!!」
車を降りたとたん、鼓膜が破れるかと思うほどの、雄叫びにも似た喧騒に包まれた。
目の前には、ずらりと長蛇の列。
乱れることなく並んでいて、全員、腰を直角より深く曲げた体勢で微動だにしない。
「なんで幹部以外もいるわけ」
本多くんが耳打ちされた中島くんが苦笑いを返す。
「お前が慶一郎さん来るの伝えとけって言うからだよ。三崎慶一郎の名前出せばそりゃあ誰もが駆けつけるわ」
「……たしかに。読みが甘かった」
ふたりの会話からなんとなく状況が読みとれた。
慶一郎さんは黒蘭会のトップ。きっと誰もが憧れてやまない存在。
「あのねえ、そんな畏まらなくていいから。礼儀正しいのは感心するけど、俺は軍隊みたいなの苦手なんだよね」



