「お世話になりました」と、そんな感じの会話。
姿が見える前に慶一郎さんだと分かった。
ふたりもその声に気づいたようで黙り込む。
「行くか」
と中島くんが部屋を出て、あたしと本多くんはそれに続いた。
カウンターの前で、慶一郎さんが市川さんに頭を下げている。
慶一郎さんは黒蘭会のトップらしいけど、その慶一郎さんですら頭が上がらない市川さんって、いったい何者なんだろう。
絶対に逆らえない主従関係が成立しているように見える。
「……あ、萌葉ちゃん。久しぶりだね、元気だった?」
慶一郎さんはこちらに気づくと、まず最初にあたしに声を掛けてくれた。
お久しぶりです、とお辞儀を返す。
それから、中島くんを見て、なにかを思い出したようにポケットに手を入れた。
「そうそう。琉生くんにプレゼントしようと思ってんだ」
中から取り出されのは、煙草の箱らしきもの。
「……ありがとうございます。けど俺、もう辞めたから……」
「あはは、知ってるよ。でも安心して、これ空箱だから。ひと昔まえの限定デザイン。このパッケージはその中でもレアで、今じゃ手に入らないんだ」
「え、すご……。うわあタール値えぐ」



