これは窪田さんに急いで用意してもらった模擬結婚式だから、ある意味、本当の結婚式じゃないけど、でも、関係ない。

 ニセモノでもなく。

 ホンモノでもなく。

 金の王子でもなく、銀の王子でもない。

 でも、私の好きな人はこの人だ、と微笑み思った鈴は、目を閉じた。

 尊からの誓いのキスを受けるために。

 そのとき、ぽすの声が聞こえた気がした。

「お前は正直者ですね――」

 いや……まあ、お父さんの声なんだけど、と苦笑した鈴の唇に、そっと尊の唇が重なる。

 あの日の朝のような、冷たく涼やかな湖の風が、ニセモノだけど、ニセモノじゃないこの結婚式場を包み込むように吹き抜けた。






                               完