「小野ちゃん!
バケツにお水を入れてきて」



「小野ちゃん!
掃除機かけて」


「小野ちゃん!」「小野ちゃん!」


「小島ですって!」
名前を覚えてくれない上に
しつこいくらい佐々木さんは
私を呼んで面倒な仕事
重いものを持つこと
全て、私に回してくる。


いつのまにか
【負けてみるか!】と
闘争心が湧いて
言われる前に先に
やってやろうじゃないの!と
黙々と仕事に臨んだ。


そして
「佐々木さーん 一緒にやりません?」
「佐々木さーん これどうやったら
上手くできます?」
と 人任せにして陰で休む佐々木さんを
わざと誘うように
わざと頼りにしてるように声をかける。


「もぉー!私がいないと
何もできないんだから
ここはねぇ」と 見本を見せるかのように
動くようになった。


それを見てる田村さんたちは
「新人のくせにやるわねー」
「上手いことやるわね!あんた」
と感心しているようだった。


ここでの生活もひと月
ふたつ月と経つと慣れたもので
初めは帰るとヘトヘトになってて
寝るしかなかったが
ショッピングに出かける余裕も
出てきたのだ。


「今更だけど あんたの会社名は何?」
母からの電話で
正直に言えなかった私。


両親は北海道の関連会社で
事務をしていると思っている。


現状を伝えるとどう思うのか
帰ってきなさいと
迎えてくれるか?
ううん心配をかけたくない。


「今はね登別温泉のホテルで
外国人向けに通訳してる」


「え?なにそれ!
事務で行ったんじゃないの?
しかもホテルって?」


「あたしも行ってびっくりよ
まぁ 頑張って学校に行ってて良かったわ」


「そうね
頑張って行かせてよかったわ
投資が身になったわ!
いい仕事に就けたわね」
と喜ぶ母。


「そうね」と言いながら
ため息が出る。


父さん母さんごめんね
嘘をついて。。。
本当は私 掃除婦なの。