暫く二人で顔を拭くのも忘れて、楽しそうに笑う彼らを眺めていた。
すると。
「大地ー。このマスクさんきゅーな」
ペンキ缶を片付けてくれ葉月君が、マスクを返しにC組の扉を開けた。
「お、葉月! どうだった、俺の傑作」
輪の中を抜けて、ドアの近くに立つ葉月君の元へ近づいてくる彼。
「おーそれがさ」
途中で言葉を紡ぐことを止めたかと思うと、急にこちらに近付いてきた葉月君。と、思ったらいきなり肩に手を回されて言葉も出ない。
「相川にはすっげー効いたぜ! めちゃくちゃビビッてた!」
そのまま力強い葉月君の腕に逆らう事はできず、グイ、と引っ張られ日向君との距離が一気に縮まった。
うわぁぁぁぁああ。
ど、どうすればいいんだろう。真正面にいるよ、あの日向君が。と、とりあえず笑っとけばいいかな。
なんていろいろ頭の中で考えを張り巡らせていると。
「ちょっと美空が迷惑そうでしょ! その手話なさいよ、健人」
「はいでたー。大阪のおばはん」
「ほんっとムカつく」
私と日向君を他所に、またも口論を始めた二人。更にこの状況に困った私に、莉奈は気づいてくれない。



