「お、おはようっ」 「あ、おはよ。同じ電車だったんだ」 幸いまだ蒼くんの周りはがら空きで、慌てて駆け寄った私を見た蒼くんは両耳からワイヤレスイヤホンを外して微笑んでくれた。 「昨日はちゃんと寝れた?」 「ね、寝れた、よ…!」 うそ。本当は一日を思い返して全然寝れなかった。 繋いだ手のひらの温度とか、溶けてしまいそうに甘いムスクの香りとか、今にも触れてしまいそうなあの距離…とか、 思い出して眠れるはずが、なかった。