私が戻った時には、先生が倒れていた。
先生、あらゆる難事件を解決してきた名探偵が、先生の一番胸を躍らせて挑むであろう殺人事件の中心で。私は持っていた物をその場に落とし、先生の肩を掴んで声を掛けた。

「せ、先生?冗談、ですよね…?」

私が先生の身体を揺さぶっても返事はない。白髪の頭部から流れ続ける夥しい血と紙のように白い顔、苦悶の表情で目を見開いて虚空を見つめる先生から生の気配を感じない。
私は呆然としていると、着信音が部屋に響き渡る。最初は自分のスマホが鳴ったのかとポケットを探り確認するが、先生が紅茶を飲んでいる待ち受け画面が表示されているだけだった。どこから鳴るのか音源を探すと、先生が使用するアンティークの机の上から聞こえている。机に近づくと整頓された書類と紅茶の入ったティーカップが二つ、そして先程からけたたましく鳴り続けるスマホが置いてあった。