『中野、今日外回りか?』 ブルーのシャツに 紺色のジャケットを羽織り ストライプのネクタイを締めながら 私には見向きもせず聞く。 「はい。アビテート社に寄ってから 会社に戻ります」 『そうか。俺は先に出るぞ 腹減ったら冷蔵庫のもんでも食っていいからな』 別に言われなくてもわかってる そう思いながらも朝のピリついた雰囲気を察し 飲み込んだ。 彼が私と一緒に朝食を食べてくれたことは一度とない。 『じゃあな』 「はい。気をつけて」 一度も振り返ることのない背中を 何度見送ったことだろう。