なんせ彼女は仕事をしない。
仕事をしない人間の評価が上がるほど世の中の仕組みは甘くない、と、私は信じたかった。
逆に言えば、仕事をしている人には評価が上がるはずだ、と。
そんな淡い期待は権力の前にはなんの意味も持たないことを己が身をもって知ることになった。
社会勉強といえばそれまでだけれど、そのために費やした時間と、すり減らした神経を返して欲しいと切に願う。
生憎、心も体もなかなかに強く逞しく育った私はコノヤロウと思うことはあれど、静々と泣き寝入るタイプではなかったためにより彼女の顰蹙を買ったのだろう。
そんなものを売るつもりは一切なかったのだが。

「はぁ」

溜息をつきながら、普段はお目にかかることのない豪華なイタリアンのコースに舌鼓を打つ。
料理に罪はないので美味しくいただくことにする。

円卓には、おべっか使いの上司達が頬を赤く染め、締まりのない顔をしている。
話し相手となるような人も近くにはおらず、面白くもない馴れ初め話は右から左だ。
どんな話を聞いたとて、私の彼女に対する印象は、きっと多分、永遠に変わらない。

娘可愛さのあまりに甘やかし放題で育てた社長は、その経営手腕は光るものがあったはずなのに、子育てに関しては学ぶことがあるやら無いやらだったのだ。
彼女は大変に健やかに、純粋に、無垢のまま、心の赴くままに成長したのだ。

仕事をしない彼女が働くに至る経緯も、おそらく、何かに感化された彼女が、働いてみたい、秘書をやってみたい!なんて言ったのだろうと推測できる。
働くという意味をどうやら履き違えたようではあるが。