5月20日
「盛大に燃えたわねー」
「ああ、凄いな。跡形もない……まぁ保険が下りるからいいけど……」
全焼したガードナー邸の前で、私達はその元あった形を思い出しながら焦げて燻る匂いを嗅いでいる。
出火原因は、空家だと思って入り込んだホームレスの火の不始末で、そのホームレスも出火してすぐに脱出したため、ケガもなかったようだ。
「あまりいい思い出がなかったのに、こう綺麗に消えてしまうとなんだか悲しいわね」
「そうだな……。また君に会えたのもここだし」
「性悪メイドだったけどね」
「性悪??どこがだ?愛らしかったぞ」
「愛らしい!?お金の為に騙して嘘つく女が愛らしいなんて、あなた頭大丈夫?」
「至って正常だ。オレにとって君は、どんな君でも愛らしい」
ランスは病院からこの調子で、少し気を抜くと甘い言葉で人を籠絡しようとするので質が悪い。
「はいはい、ありがと」
こういうのはサクッと流してしまうに限る。
「冷たいなぁ。また夫婦になるのに今からそんなんじゃダメだろ?ほら、新婚みたいにもっと側に来て」
ランスは後ろから私をギュッと抱き締めると、愛しそうに髪に口づけた。
「ねぇ、悪いんだけど、結婚はしないわよ」
「…………はぁ!?……それ、どういうことだ!?」
「どういうことも何も。私ね、暫く結婚はしないわ。写真家としてもまだまだだし、勉強したいこと、行きたいところたくさんあるの。それにここに残るって言ったけど、結婚するなんて一言も言ってないわよ」
したり顔の私を見て、一瞬悔しそうな顔をしたランスはそれでもすぐに頭を回転させ切り返してくる。
「………そうか………よし、わかった。オレが甘かったよ。いいだろう、君がその気ならオレも容赦はしないからな」
「容赦はしないって……」
物騒な言葉に胸がドキリとする。
「君がオレとまた結婚したくなるように、ありとあらゆることをするよ。そうだ、もう一度最初から始めないか?」
「最初から??」
「ああ、もう二度と間違えない。何でも二人で話し合って決め、不安があるならその時ちゃんと相手に伝える」
「そして、他人を信じる前に、私を信じること」
「もちろん!それが一番大事だな」
ランスは私の肩を抱き、庭があった方へ移動すると今度は両手を取って頬笑むと恥ずかしそうに言った。
「じゃあ、あの……改めて……オ、オレと付き合ってくれ」
………いや、最初から始めるってこういうことなの?
なんかこっちまで恥ずかしいんですけど!
「…………ええと、それ演劇祭の時に言えばよかったのに。そうすれば、こんなに拗れてないと思うんだけど?!」
真面目に答えるのが恥ずかしくてつい昔のことを持ち出してしまったけど、どうもそこはつかれたくない部分だったらしい。
その証拠に、いつもポーカーフェイスのランスの顔色がみるみる変わっていった。
「い、言えるかよっ!あの時君は学生だったろ?そんな若い子に一目惚れしたなんて……恥ずかしくて。それに、こんなオジさんなんて相手にされないかもって思ったし」
「…………だからって政略結婚に持っていくのはどうなのよ!!そんなの………ああ、もういいわ」
「ごめん……」
「いいのよ、それこそもう今更だわ。……そうね、最初からね……はい、お付き合いしましょう」
私の返事を聞いて少し調子を取り戻したランスは、ここぞとばかりに距離を詰めぐいぐい迫ってくる。
「じゃ、デートだなデート!さぁ行くぞ」
「ダメよ、先にレオナルドの見送りに行かなきゃ」
「…………なぁ、君とレオナルドはその……」
不安があるならその時伝える……実践してるのかしら。
それとも、ただの嫉妬?
「何もございません!」
そう言うと、ランスは大きな声で笑い飛ばした。
その笑顔が素敵で、やっぱり好みの顔だなと思ったんだけどそれは言わないでおくことにした。
夕暮れ、帰路につく人達で賑わう町を私とランスは手を繋ぎ歩いている。
ディナーを予約した店に向かいながら、一つ目の路地を曲がったところにある、ネオンで煌めく界隈の漢字の看板を見て、ふと、あの言葉が頭をよぎった。
「焦ることはない。それが運命なら向こうからやってくる」
私の呟きに、ランスが不思議そうな顔をして覗き込む。
「何?誰かの名言?」
「ええ。中華好きのイタリア人の名言よ」
……………………………………………the end
「盛大に燃えたわねー」
「ああ、凄いな。跡形もない……まぁ保険が下りるからいいけど……」
全焼したガードナー邸の前で、私達はその元あった形を思い出しながら焦げて燻る匂いを嗅いでいる。
出火原因は、空家だと思って入り込んだホームレスの火の不始末で、そのホームレスも出火してすぐに脱出したため、ケガもなかったようだ。
「あまりいい思い出がなかったのに、こう綺麗に消えてしまうとなんだか悲しいわね」
「そうだな……。また君に会えたのもここだし」
「性悪メイドだったけどね」
「性悪??どこがだ?愛らしかったぞ」
「愛らしい!?お金の為に騙して嘘つく女が愛らしいなんて、あなた頭大丈夫?」
「至って正常だ。オレにとって君は、どんな君でも愛らしい」
ランスは病院からこの調子で、少し気を抜くと甘い言葉で人を籠絡しようとするので質が悪い。
「はいはい、ありがと」
こういうのはサクッと流してしまうに限る。
「冷たいなぁ。また夫婦になるのに今からそんなんじゃダメだろ?ほら、新婚みたいにもっと側に来て」
ランスは後ろから私をギュッと抱き締めると、愛しそうに髪に口づけた。
「ねぇ、悪いんだけど、結婚はしないわよ」
「…………はぁ!?……それ、どういうことだ!?」
「どういうことも何も。私ね、暫く結婚はしないわ。写真家としてもまだまだだし、勉強したいこと、行きたいところたくさんあるの。それにここに残るって言ったけど、結婚するなんて一言も言ってないわよ」
したり顔の私を見て、一瞬悔しそうな顔をしたランスはそれでもすぐに頭を回転させ切り返してくる。
「………そうか………よし、わかった。オレが甘かったよ。いいだろう、君がその気ならオレも容赦はしないからな」
「容赦はしないって……」
物騒な言葉に胸がドキリとする。
「君がオレとまた結婚したくなるように、ありとあらゆることをするよ。そうだ、もう一度最初から始めないか?」
「最初から??」
「ああ、もう二度と間違えない。何でも二人で話し合って決め、不安があるならその時ちゃんと相手に伝える」
「そして、他人を信じる前に、私を信じること」
「もちろん!それが一番大事だな」
ランスは私の肩を抱き、庭があった方へ移動すると今度は両手を取って頬笑むと恥ずかしそうに言った。
「じゃあ、あの……改めて……オ、オレと付き合ってくれ」
………いや、最初から始めるってこういうことなの?
なんかこっちまで恥ずかしいんですけど!
「…………ええと、それ演劇祭の時に言えばよかったのに。そうすれば、こんなに拗れてないと思うんだけど?!」
真面目に答えるのが恥ずかしくてつい昔のことを持ち出してしまったけど、どうもそこはつかれたくない部分だったらしい。
その証拠に、いつもポーカーフェイスのランスの顔色がみるみる変わっていった。
「い、言えるかよっ!あの時君は学生だったろ?そんな若い子に一目惚れしたなんて……恥ずかしくて。それに、こんなオジさんなんて相手にされないかもって思ったし」
「…………だからって政略結婚に持っていくのはどうなのよ!!そんなの………ああ、もういいわ」
「ごめん……」
「いいのよ、それこそもう今更だわ。……そうね、最初からね……はい、お付き合いしましょう」
私の返事を聞いて少し調子を取り戻したランスは、ここぞとばかりに距離を詰めぐいぐい迫ってくる。
「じゃ、デートだなデート!さぁ行くぞ」
「ダメよ、先にレオナルドの見送りに行かなきゃ」
「…………なぁ、君とレオナルドはその……」
不安があるならその時伝える……実践してるのかしら。
それとも、ただの嫉妬?
「何もございません!」
そう言うと、ランスは大きな声で笑い飛ばした。
その笑顔が素敵で、やっぱり好みの顔だなと思ったんだけどそれは言わないでおくことにした。
夕暮れ、帰路につく人達で賑わう町を私とランスは手を繋ぎ歩いている。
ディナーを予約した店に向かいながら、一つ目の路地を曲がったところにある、ネオンで煌めく界隈の漢字の看板を見て、ふと、あの言葉が頭をよぎった。
「焦ることはない。それが運命なら向こうからやってくる」
私の呟きに、ランスが不思議そうな顔をして覗き込む。
「何?誰かの名言?」
「ええ。中華好きのイタリア人の名言よ」
……………………………………………the end

