素敵な協議離婚~あなたが恋するメイドの私~

5月18日

個展の会期中、ランスは毎日やって来て私をランチやディナー、話題のミュージカルや映画に誘った。
いつ仕事をしてるんだろうというくらい、頻繁にやって来ては、巧みな話術でノーと言わせない交渉をしてくるのだ。
私はと言えば、レオナルドに指摘されてから「その事」を考えてばかりで、ランスの顔を正面から見ることが出来ない。
そんな私の様子に、いつもと同じ笑顔を浮かべ、安心させるようにとりとめのない会話をする彼が、不本意ながら素敵に見えてしまったりする。

「どうかした?最近いつもぼーっとしてるな?」

ランチ時、カジュアルなイタリアンのお店で彼は心配そうに私を覗きこむ。

「え?あー、何でもないわよ。……心配してくれてありがとう」

「いや、うん…………あの、な、その……」

「どうしたの?」

ランスの様子が、今日は少しおかしいことに私はとっくに気付いていたけど、それが何なのかは良くわからなかった。
そわそわしたり、口ごもったり。
いつも流暢に話す彼らしくない様子に何事かと構えてしまう。

「今日で会期も終了だな……」

「そうね」

「君は………これからどうするんだ?」

「これから?……ああ、個展が終わったら?一応レオナルドとイタリアに帰ろうと思っているわ。そうね、明後日にでも」

「…………………………」

「ランス?」

「行かないで欲しい」

彼はとても真剣な顔で、ワイングラスを支えた私の指を上から押さえた。

「でも……私は………」

「オレのことが嫌いか?」

「嫌い……じゃないと……思う」

「じゃあ好きか?」

「………………」

「オレは好きだ。メリー、愛してるよ」

不意打ちを喰らってしまった………。
まさかこんなにストレートに言われるとは。

「ちょ、ちょっと待って。あの、もう少し時間を………」

「嫌だね。あの時も待ってと言われて、素直に待ったら突然いなくなったじゃないか!」

あー、メグの時のことか………。

「それに、時間をくれって言うけど、明後日帰るのに時間なんてやれるかよ」

さっきまで紳士だったランスは、焦り始めたのか次第に余裕がなくなって、少し言葉が荒くなる。
メグの時のトラウマが余程酷かったのだろうか、私の指を押さえる力も強くなった。

「………じゃあ、明日までなら待つ。明日ホテルまで行くからその時聞かせて」

「わかった、明日ね……」

私は何故か死刑執行を待つ囚人のような気持ちになり、出来るなら明日なんて来なければいいと思っていた。