10月27日②
前もって荷造りしておいたスーツケースを引っ張り出し、撮影用の機材が入ったケースとパスポートを確認して、私はその日のうちにアパートを出た。
フレドにも連絡はしない。
報酬と慰謝料はあらかじめ伝えてある口座の方に振り込んで貰うことになっている。
とにかくここじゃないどこかへ行きたい。
そう思って、半年後に行く予定だった海外への撮影旅行を前倒しにした。
空港につき、少し雨が降ってきた曇り空を眺め、搭乗アナウンスに従って機内に入る。
窓際は苦手なので、あらかじめ通路側の席をとっておいたけど、窓際の席の人がまだ来ていなかったので、暫く立ってそこで待っていた。
「あ、どうもすみません!」
振り向くと、どこかで見たことのある顔があった。
どこで見たんだっけ??
私が首を傾げ、うーんと唸っていると、その人物はとても人懐っこい笑顔で言った。
「ああ!君はこの間のシニョーラですよね?雰囲気が違うのでビックリしたよ」
シニョーラ?………イタリア人かな?
あっ!!そうだ、思い出したわ!
この人、確か病院で……。
「偶然ですね!旅行ですか??お一人で?」
「ええ。まぁ」
と、当たり障りなく答えておく。
「そうですかー、いや、僕ね、この国で個展を開いてたんですが、お恥ずかしいことに虫垂炎になってしまいまして。それで入院してたんです」
個展!?
やっぱりイタリアの写真家なのね。
「まぁ!それは大変でしたね!でも無事に退院出来たようで良かったですわ」
「ええ、ありがとう!御主人は目の手術を?」
「へ?え?……あ、いえ、主人ではないんです」
「あ、そうなんだ?僕はてっきり夫婦だと……ごめんね。じゃああの写真、貼り付けて来ない方が良かったかな?」
「貼り付ける??」
「うん、病院の掲示板にね、きっと誰かが気付いて渡してくれると思ったから」
な、なんて余計なことをっ!
ランスに見られたらバレバレじゃないの!
「そ、そうなんですかぁ。まぁ、やっちゃったことはしょうがないですよ……」
「だよねぇ!」
イタリア人は悪びれずケラケラと笑った。
そう言えば、なんて名前だろう?
写真家なら知ってるかも。
「あの、失礼ですが貴方のお名前お伺いしてもいいですか?私も一応写真の仕事をしているので、知っているかも」
「へぇ、君も写真を?!僕はレオナルド・アドニス。被写体は人物専門」
レオナルド・アドニス!?
イタリアの超売れっ子カメラマンじゃない!!
確か、ハリウッドセレブも顧客にいたって。
……恥ずかしい………超有名人だった。
そりゃあ、お高いカメラを持ってるはずだわね。
「あの、私はメリー・ディクスンです」
「メリー??あれ?メグじゃないの!?」
レオナルドは目を丸くして私をじーっと穴があくくらい見つめている。
「………メリー、です」
「ふうん、なんか複雑そうだね。でも、本当はもっと単純かもしれないよ」
「単純??」
「難しく考えすぎて、本当のことに気づかないのは良くあることさ。僕の撮った写真を見れば、それが良くわかる。彼はとても君を愛しているよ」
「あっ!愛!?いえ、それはいろいろあって、その……」
「複雑なんでしょ?」
「はい」
レオナルドはふっと笑って窓に頬杖をつくと、物憂げに私を見た。
「焦ることはない。それが運命なら答えは向こうからやって来る」
「どこかの詩人の言葉??」
「いや、僕の言葉」
そう言うとイタリアの写真家兼詩人は目を伏せ、暫しの休息に入る。
私はその言葉の意味を考えてみたけど、結局良くわからずに諦めて目を伏せた。
前もって荷造りしておいたスーツケースを引っ張り出し、撮影用の機材が入ったケースとパスポートを確認して、私はその日のうちにアパートを出た。
フレドにも連絡はしない。
報酬と慰謝料はあらかじめ伝えてある口座の方に振り込んで貰うことになっている。
とにかくここじゃないどこかへ行きたい。
そう思って、半年後に行く予定だった海外への撮影旅行を前倒しにした。
空港につき、少し雨が降ってきた曇り空を眺め、搭乗アナウンスに従って機内に入る。
窓際は苦手なので、あらかじめ通路側の席をとっておいたけど、窓際の席の人がまだ来ていなかったので、暫く立ってそこで待っていた。
「あ、どうもすみません!」
振り向くと、どこかで見たことのある顔があった。
どこで見たんだっけ??
私が首を傾げ、うーんと唸っていると、その人物はとても人懐っこい笑顔で言った。
「ああ!君はこの間のシニョーラですよね?雰囲気が違うのでビックリしたよ」
シニョーラ?………イタリア人かな?
あっ!!そうだ、思い出したわ!
この人、確か病院で……。
「偶然ですね!旅行ですか??お一人で?」
「ええ。まぁ」
と、当たり障りなく答えておく。
「そうですかー、いや、僕ね、この国で個展を開いてたんですが、お恥ずかしいことに虫垂炎になってしまいまして。それで入院してたんです」
個展!?
やっぱりイタリアの写真家なのね。
「まぁ!それは大変でしたね!でも無事に退院出来たようで良かったですわ」
「ええ、ありがとう!御主人は目の手術を?」
「へ?え?……あ、いえ、主人ではないんです」
「あ、そうなんだ?僕はてっきり夫婦だと……ごめんね。じゃああの写真、貼り付けて来ない方が良かったかな?」
「貼り付ける??」
「うん、病院の掲示板にね、きっと誰かが気付いて渡してくれると思ったから」
な、なんて余計なことをっ!
ランスに見られたらバレバレじゃないの!
「そ、そうなんですかぁ。まぁ、やっちゃったことはしょうがないですよ……」
「だよねぇ!」
イタリア人は悪びれずケラケラと笑った。
そう言えば、なんて名前だろう?
写真家なら知ってるかも。
「あの、失礼ですが貴方のお名前お伺いしてもいいですか?私も一応写真の仕事をしているので、知っているかも」
「へぇ、君も写真を?!僕はレオナルド・アドニス。被写体は人物専門」
レオナルド・アドニス!?
イタリアの超売れっ子カメラマンじゃない!!
確か、ハリウッドセレブも顧客にいたって。
……恥ずかしい………超有名人だった。
そりゃあ、お高いカメラを持ってるはずだわね。
「あの、私はメリー・ディクスンです」
「メリー??あれ?メグじゃないの!?」
レオナルドは目を丸くして私をじーっと穴があくくらい見つめている。
「………メリー、です」
「ふうん、なんか複雑そうだね。でも、本当はもっと単純かもしれないよ」
「単純??」
「難しく考えすぎて、本当のことに気づかないのは良くあることさ。僕の撮った写真を見れば、それが良くわかる。彼はとても君を愛しているよ」
「あっ!愛!?いえ、それはいろいろあって、その……」
「複雑なんでしょ?」
「はい」
レオナルドはふっと笑って窓に頬杖をつくと、物憂げに私を見た。
「焦ることはない。それが運命なら答えは向こうからやって来る」
「どこかの詩人の言葉??」
「いや、僕の言葉」
そう言うとイタリアの写真家兼詩人は目を伏せ、暫しの休息に入る。
私はその言葉の意味を考えてみたけど、結局良くわからずに諦めて目を伏せた。

