素敵な協議離婚~あなたが恋するメイドの私~

10月11日⑤

仮にフレドの言うことを信じるなら、ランスは最初から私のことを好きだったと言うことになる。
血筋でもなく、権力でもなく、私自身を………。

「………やり直す気はない?」

俯く私を覗き込むように見るフレドに、ゆるゆると首を振ると、そっとアルバムを閉じた。

「フレド、私はメリー・ディクスン。メグ・ファランじゃない。ランスが好きなのはメグでメリーじゃない。メリーはね、もう過去なの」

そう、ガードナー家の庭でランスがメグにメリーを愛していたと告げたのは、それがもう過去のことになっていたからだ。
過去として処理された記憶は、2度と輝くことはなくセピア色の写真のように心の底に閉じ込められる。

「でも、それだと……。兄貴はまた同じ人に振られることになる……」

「同じじゃないわ!最初の約束通り、ランスの手術が終わったらメグは消えるわ。メイドの分と慰謝料との支払をよろしくね」

取りつく島もない私の様子に、深くため息をつくと、フレドはブリーフケースにアルバムをしまい寂しそうに笑って立ち上がる。

「わかったよ、最初からそういう約束だ。無理強いは出来ない。メリー、本当にありがとう、手術まで兄貴を頼むよ」

「ええ、ちゃんと最後まで仕事はするわ」

メグ・ファランとして仕事を全うしよう。
ランスを騙して………手術をさせる。
もし、後でメグがいなくなって傷ついたとしても、前のように忘れることは出来るはず。
メリーを忘れたように、メグのこともきっと忘れてしまえるだろう。

玄関を出て、車で去っていくフレドを見送りながら私はもう一度ランスを傷つける心の準備をする。

心の奥に引っ掛かる何かを、それ以上起こさないようにそっと蓋をして。