駅前のイルミネーション。

明るくて、眩しくて、騒がしくて。

一刻も早く帰りたいのに、ふと足を止めてしまった。


大きなツリーのてっぺんにある、ツリートップスターを見上げる。

顎の下、マフラーの隙間から冷たい風が喉元を滑って身震いする。


あの星、タイミングは毎日違うんだけれど、ピンク色に光ることがあるらしい。

友人が話していたことを思い出して、銀と金を交互に発する星を眺めていると、不意に視界を遮られる。


「ちょっと、邪魔」


「んー……そんな都合良く光らないよなあ」


「邪魔ってば」


「ピンクになーれ。なんつって。何言ってんだおれ」


なんだよ、それ、知ってるのか。

恋人同士で星がピンクに瞬く瞬間を見たら永遠に結ばれる、なんてよくあるジンクスに乗っ取ったような、出処もわからない噂のことはどうだろう。


わたしとこいつが永遠に結ばれる対象でないことは、こいつが一番よくわかってるはずだ。


何回、何十回、と。

わたしはこいつとそういう関係になることを拒否し続けている。


最初はとても遠回りだったのに、徐々にストレートに言うようになって、いつからか、回りくどいことは一切しなくなった。


おはようのあとに『好きです』

また明日のあとに『好きです』

いい天気ですねのあとに『好きです』


ああ、でも、一番多いのはやっぱり。


「麻耶さん、好きです」


マフラーを巻いていない、見ているだけで震え上がりそうな、襟足の短い剥き出しの首元をぼうっと眺めていたのがいけなかった。

いつもそうするように、こちらを振り向いて少し身を屈めるから、ばっちりと視線が絡み合う。


傍から見たら、駅前のイルミネーションを前にイチャつくカップルに思われるのかもしれない。

ふわりとした、粉雪みたいな、何度聞いてもやっぱり照れくさい言葉と雰囲気に、満更でもないと自覚しているわたしだっている。


こいつに、嫌いなところなんてない。

好きなところの方が、まだいくつかは挙げられる。


「麻耶さん」


数拍置いて、また『好きです』と言った。


わたしも、好きだよ。

たとえば、愛おしそうに、大事そうにわたしの名前を呼んでくれるところ。

好きの二文字にそれ以上のものを詰め込んで、けれどわたしが腕に抱えられないほど重くならないよう、続く言葉を決して紡ごうとはしないところ。