「佐原くん、ごちそうさま」
食事を終えた俺たちは優月が眠くなる前に店を出た。
「奢ってもらってよかったの?」
「兄貴の威厳だよ」
「ありがとう、兄ちゃん」
駅に向かって歩き出すと、夜空に丸い月が浮かんでいることに気づいた。
俺は今でも海月と過ごした日々のことを夢にみる。
――『逃げてもいいんだよ』
海月の病気を知ったあと、本当は朝が来るのが怖かった。
海月がいない朝を迎えるのが怖くて、眠れない日もあった。
でも、今でも変わらずにある強い気持ち。
それは、海月を好きになったことに、後悔はないということだ。
なあ、海月。
そっちはどう?元気にやってる?
俺はたまにズル休みしたいぐらい仕事が忙しい時もあるけれど、残念なことに風邪ひとつ引かない。
あと10年。20年。30年。いや、もっともっと長くこっちにいると思う。だから……。
「しゃはら、手繋いで帰ろう」
海月と同じ顔で笑う優月が俺の手を握った。
「うん。帰ろう」
だから、大切な人たちの側に寄り添いながら、海月にまた会える日まで、俺らしく生きていこうと思う。
*
:
《END》



