「先輩も今日はわざわざありがとうございました」
大学の入学式も4月に入ってすぐのはずだから、一人暮らしの引っ越し準備で忙しかったはずなのに。
「今日、郁巳先生は?」
「先生は春休みでも仕事なので」
昨日先生は別れ際に「見送りにはいかない」と言った。私もそうしてくださいと返した。
あの教室で先生と抱きしめ合えただけで私は十分。
今度こそ私は笑ってこの街から出ていきたいから。
「先輩もこれから色々と大変だと思いますが頑張ってください」
「うん。なにかあったらすぐに連絡してね」
「はい」
大きく返事をしたところで、空港行きのバスがこちらに向かって走ってきた。
「菜穂も元気でね」
「うん。六花もね……!」
そしてゆっくりとバス停に停車したバスに私とお母さんは乗り込んだ。
私は窓際の席へと座り、お母さんはその隣に腰を下ろす。
窓から見える菜穂と和谷先輩の顔。ふたりとも瞳が潤んでいて、ずっと私の名前を呼んでくれていた。
「六花!またね!」
「的井さん。元気で!」
その声が耳に聞こえたあと、バスのドアが閉まり車体はアナウンスとともに発進した。ふたりはバスが見えなくなるまで、ずっと手を振ってくれた。
「見送りに来てくれる友達がいるなんて六花は幸せね。大切にしなきゃね。これからも」
「うん」
お母さんの言葉に、私は何度も頷く。



