こうして涙腺が弱くなるくらい現実のことだって分かっているのに、まだ夢であってほしいと願っている。
「それで私……」
言いたくない。
でも、言わないと自分が崩れてしまう。
「網走に引っ越すかもしれないです」
か細い声で打ち明けた。
「網走って……北海道?」
「……はい」
再び、保健室に沈黙が続く。
昨日の夜。短い時間だったけどお母さんと話したことで分かったことがある。
それは私が思うよりもずっとお母さんは本気だってこと。
離婚したあと、彼女と一緒になろうとしてるお父さんとは違って、お母さんはすでに彼氏らしき人とは関係を解消していた。
最近とくに帰りが遅かったのは彼氏と会っていたからではなく、仕事の引き継ぎ作業をしていたらしい。
彼氏と別れて、仕事も辞めて、北海道で一からやり直す。それはお母さんの中で変わることのない決意だった。
もし、私がお母さんに付いていくことになれば、転入先の高校も早めに決めなければならない。
お母さんはそういうこともしっかりと調べていて、転入学試験の日程や入試科目である教科や面接内容。そして転校するのに必要な書類などもすでに準備していた。
私の知らないところで、私の人生を左右することを決められていたことはやっぱりどう考えても身勝手でしかないと思う。
けれど、それだけお母さんが私を側に置いて育てようとしていること。
離婚したらお母さんからも厄介払いをされるだろうと思っていた私にとって、それはすごく意外なことでもあった。



