「電車の時刻調べるね」


菜穂がスマホで確認してくれている中で、私は先生に声をかけた。



「お疲れさまです」

「おう、的井は電車だろ。気をつけて帰れよ」

「先生は車ですか?」

「ううん。教師たちも修学旅行は全員生徒たちと同じ電車かバスだよ」

「そう、なんですね」



思わず一緒に帰りませんか、と言いかけてしまったけれど、他の教員たちもいるし、先生はきっと大人同士で帰るほうが気を遣わないで済む。



「六花。電車あと15分くらい。そろそろホームに向かおう」

「う、うん」


私は急いで菜穂の元に戻る。

……と、その時、肩にかけていた私のカバンを先生が引き止めるようにして引っ張った。




「的井。修学旅行、楽しかったな」


それは担任としてではなく、先生の個人的な言葉のような気がして、じわりと胸が熱くなる。



私たちの関係は変わらない。

でも、確実に変わったものもある。




「はい。とても楽しかったです!」


先生と思い出を共有できたこと。

そして、私の気持ちを知ってもこうして笑いかけてくれること。


私の中で、また青春の一ページが刻まれていった感覚がした。