わざわざこの時間に外に行くなんて、きっと用事はアレだろうと私は察する。
「ごめん、菜穂。先に部屋に戻ってて」
「うん。わかった」
私は菜穂と別れて、そのまま先生を追いかけた。
先生はホテルの玄関近くにある屋根付きのスペースに立っていた。そこには木製の手すりがあり、雰囲気がどことなく学校の非常階段に似てる気がした。
「やっぱりタバコですか」
暗闇の中で、タバコに火をつけていた先生に声をかけた。
「は、お前、なにしてんの?」
「先生の姿が見えたので」
「そうじゃなくて、風呂上がりだろ。風邪でも引いたらどうすんだよ」
先生はタバコを口にくわえたまま、自分が着ていたダウンジャケットを私にかけてくれた。
「……これじゃ先生が」
「残念なことに数十年風邪は引いてないから大丈夫だよ。おかげでズル休みもできねーよ」
先生のタバコの煙と白い吐息が夜空に深く溶けていく。
先生が貸してくれたダウンジャケットはとても暖かくて、先生の温もりが残っていた。
「部屋で吸えないんですか?」
私はそっと先生の隣に並んだ。
「俺以外の教師は全員禁煙者なんだよ。本当に喫煙者には悲しい世の中だよ」
「みんな身体に悪いから吸わないんですよ」
「健康を第一に考えてても病気になるヤツはなるよ」
「でも私は先生にも自分の身体を気遣ってほしいです」
「言ったろ。風邪ひとつ引かないって。丈夫だけが取り柄なんだよ、俺は」
改めて星が輝く北海道の空の下で、こうして先生と話していることが不思議な気分。



