自転車に一度乗れれば忘れないモノ。
 それと同じように考えなくても化粧は出来るし、不思議なもので食事も食べられた。

 何か考えなくても仕事へ行けたのはきっと高宮課長のお陰だと思う。

「おい。いつまで頭をお留守にすれば気が済むんだ。」

 私の目の前には冷ややかな視線を向ける高宮課長。
 職場ではこれが通常運転。

 慌てて「すみません」と謝罪を口にして高宮課長の業務依頼の内容を頭にたたきこんだ。

 もうすぐ結婚するって浮かれていた私はこの度、婚約破棄された。

 日に日にボロボロになっていく私を見て、周りの人達に「結婚式にお呼びしたのに申し訳ありません」って謝って回らなくて済むくらいに結婚がダメになったことは知れ渡っている。

 周りは腫れ物に触るような扱い。

 変わらない態度なのは私のこと親の仇とでも思ってるんじゃない?ってくらい手厳しい高宮課長だけ。

 そう。
 高宮課長とは怖い上司と出来の悪い部下。
 ただそれだけの関係だった。