山南は、いつも清楚な出で立ちだけど、今日は羽織までシワ一つなくて、大きな荷物を抱えていた。



「お出掛けですか?」



「………」




遥は黙り込む山南を下から覗いた。



「山南さんも眉間にシワ」



山南はフッと笑った。




「綾野くん。私は隊を抜け出す」






―――――――――――――え?



山南の目を細めて怒りをおさめる態度に、言動に遥の思考は停止した。




「な、なんで」




やっと出た声もわずか。



山南が首を縮めるのがわかった。




「明里を待たせているからです」



〝明里〟それは山南のひいきにしていた女の方で、なんとなく他の隊士も知っていた。



「どこに、行くんですか」


「富士山。富士山を見たら帰ってきます」




山南の目は細くなったけど、それは優しい笑いだった。



「………帰ってきちゃダメ」



遥の瞳から次第に流れる涙。