ふと時計を見ようと本を閉じると、先生がもう教卓に立っていて、ホームルームが始まっていた。
私は委員会にも入っていない。
クラスの係だって黒板を消す係で、誰かと喋る必要は何もなかった。
先生が教室を後にして生徒が次々と立ち上がる。
あ……終わったんだ、と理解した私は一限目の世界史の教科書を取りに一旦廊下に出る。
「……」
教科書を取って教室へ戻ろうとしたが、ドアの前に彼が立ち塞がって入りたくても入れない。
「あの、ちょっとどいて。入れない」
目は合っているんだ。
彼は故意でしているに違いない。
「……おはよう、天津さん」
どいてくれるかと思いきや、口にしたのはただの挨拶で、私は驚かずにはいられない。
いや、なんでよ。昨日話しかけないでって言って頷いたのは彼だ。
それに、耳が聴こえない私に気を遣っているのか口をゆっくり動かして分かりやすく発したのだ。