後ろ姿だけなのに彼だとすぐわかってしまう。その髪も服装も立ち姿も雰囲気も何もかもが彼なのだ。
当然ながらに、彼はまだ私には気がついていない。
神楽君がいる事もあって話し掛けようかと迷っていた時、不意に彼が此方を向いた。
「!」
思わずドキリとする。目は正確に此方を捉えていて、でも、動きはせず喋りもしない。それは私も同じ。
自然と見つめ合っているようになってしまっていたからなのか、隣にいた神楽くんが声を上げた。
「祈ちゃん、あの人と知り合い?」
一瞬、何と答えるか迷ったけれど知り合いと言ってもそれくらいは大丈夫だろうと頷き、ようやく私は声を掛ける事が出来た。
微笑むような表情を見せてみる。
「久しぶり、ですね。透佳さん」
「何してんのこんなとこで」
礼儀の範囲内の挨拶も返さずに、聞いてくる。二週間程会っていないのに相変わらずだ。
「海で花火やってて、喉乾いたから飲み物買いに来たんです」
「ふぅん」
「透佳さんは……?」
聞きながらまた、教えないとか言われるんだろうなと予想した。
「教えない」
ほら。本当は聞くだけ無駄だ。


