視線を私から離し、手首の手当てを手慣れた様子で始める。実際、何十回と自分でしてきたのだろう。

それをしている為に此方を見なくとも、耳だけは此方に傾けてくれていると信じ、口を開いた。


「私のお父さんも浮気してるんです」


気づいてしまったのは随分前のことだ。知らないふりをしておけばよかったものを。


「……アンタの家族、表面下最悪だね」


投げ掛けられた感想に、「ですよね?」と笑って返し、表面上だけの光景を目に浮かべた。

家族揃った食卓に、私が満面の作り笑顔で、「パパ、ママ」と話し掛ける姿。偽物。

滑稽な事だ。内心では穢らわしいと嫌悪すらしているのに。


「先に浮気したのがお父さんだったんです。で、次はお母さん」

「それ知ってて、よく笑えるよね」


誰も私を見てはくれていなかった。なんて悲劇のヒロインぶって絶望感すら感じても尚私は、


「知ってるからこそ、大好きだからこそ、私は家族を崩さないように必死なんです」


こうやって今まできた。