そうして長い間お風呂場にいた後に、脱衣場に置かれていた彼の服を勝手に着てお風呂場から出た。
お風呂に入ってさっぱりしたが、調子が出ないのは変わらない。
頭を下げながらも彼のいる部屋へ向かい、もうそろそろ時間的に帰らないといけないかな。なんて事をぼんやりと呑気に考えていた。
だが、部屋に入るなり私は呆然とする事になる。
心臓が一瞬跳ねて思考回路が停止した。
「……何、してるんですか?」
「何だ。上がるの早いね」
早いわけがないのにそんな事を言って彼は私の質問には答えない。此方も見ずにその動作をし続ける。
少し彼を見て立ち尽くした後、止まっていた脳がようやく理解した。彼のしている事。
――リストカット。
切られた場所に次から次へと血が溢れる。
いや、実際そこまでの傷ではないのだろうが、初めて目の当たりにするそれは、私には衝撃的でそう見えたのだ。
腕を軽く掲げるようにしながら、一定のリズムで手首を浅く切り続ける。
当の本人は無表情に手首を眺めていた。赤く黒い血液が、肘まで行こうと落ちていく。
「……止めないの」


