彼は息を吐くと立ち上がり、小さな冷蔵庫の前まで歩いてそれを開いた。
近くに居た為に冷気が肌を撫でてくる。
ジッと見ていれば取り出したのはコンビニでよく見る二つ入りのケーキだった。
「ね、ケーキ好き?」
「え、いや、どちらかと言うと甘いものは好きじゃないですが……」
「じゃ、いらない?」
進んで食べたいものでもないので、いらないと返そうと思ったが、出てきたのは何故か「食べます」という言葉だった。
ハッとして口に手をあてるも、時々嫌いな物を食べるのもいいかと訂正はしなかった。
やがて皿に移されたケーキが目の前に置かれる。
渡されたフォークを遊ぶように触りながら、彼に再び視線を向けた。
「それで、さっきの質問は何だったんですか?」
今度は視線を向けてくれない。向けられるのはケーキの方。視線の先を見たときにはグチャリとケーキがひしゃげた瞬間だった。
同時に私もフォークを突き立てケーキを口に含む。甘さに思わず顔をしかめた。が、悪くない。
グチャリ、とまた音がした。


