彼はそっと手首を撫でる仕草をした。
何の事か分からない。彼の方がよっぽど話がコロコロ変わっている。
「動物は本能しかないから出来なくて、人は理性があるから出来る。理性さえなければ余計なこと考えずに済むからなんだろうね」
何て変な話だ。何でいきなりそんな話なんだ。
じゃあ彼は……
「余計なこと、考えてるんですか?」
「余計な事、ね。アンタの考える余計なことって何?」
質問を質問で返すなんて意外だった。だから、返答に間が開く。それだけで、シンと部屋が静まり返る。耳鳴りしてきそうなくらい静かだ。
そんな空間で考える私が考える余計なこと。そもそもの話をすると、この考えている事自体余計だ。……となれば。
「人の思考そのものが余計なんじゃ、ないですか?」
でも、それだと答えじゃない。言い換えただけだ。
「ふぅん」
そんな答えに納得したように見えてその実
「正解は何ですか?」
「正解はないよ」
何もない。開けてみれば空っぽだ。


