そこで初めて顔が痛みに歪んだ。

彼は手を引っ込め、手首の下を掴んだ。無表情以外の表情を見せたかと思ったのは一瞬で、直ぐ様また元に戻った。

運悪く、今日は手首にリストバンドをしていなくて、白い包帯が赤く染まっていく。


「あー……抉った」


当の本人は、慌てる事などなくあの日のように少し腕を掲げ眺めていた。

酷く冷静で、やっぱりこの姿に酷く惹かれた。

いつしか、先の悔しさなど消え、目の前の現状の回収に掛かり始める。


「ごめんなさい。直ぐ、手当てしますね救急箱は……」


棚や引き出しなどはない部屋なので、角に置かれた救急箱を家の主に聞かずとも見つける事が出来た。

救急箱を傍らに置いてから此方のペースで彼の手首に巻かれた包帯とガーゼを剥がした。


「――!」


そして絶句する。

あの日ちゃんと見ることが出来なかった傷口。無数の傷跡。痛々しい。

その中でも、今溢れ出る血の傷は真新しく見えた。