彼は私から一歩遠のいて、こう告げる。
「俺ね、その顔で余裕ぶってる時も興奮するけど、余裕ない時の方がもっと好き」
「……もっと、オブラートに包めないんですか?」
彼は私に対して言った発言を撤回するわけもなく、続けるだけだった。
「男ってそんなもんだよ。そんな事しか考えてない」
「――……男の人って怖いですね」
「そう。怖いんだよ。だから……」
“気をつけてね”
忠告と警告。耳打ちするかのように言ってきたかと思えば、私の横を通り、自分の家までの帰路に着く彼。
どこまでも彼は彼のペースだった。
「……送ってくれないんですね」
唇を尖らせて呟いてから、何となく手に持った傘をブンッと一回振り、歩き出した。
家まであと十数分。雨の匂いがした。


