私がそう言ったからか、ようやく彼は此方をちゃんと見た。そして、私もようやく彼を真正面から見ることが出来た。
不健康そうな青白い肌。長い前髪は片目を隠してしまっていて、見えている瞳は少しだけつり気味だ。何となく猫のような印象を持った。
しかしながら、本当はそんな可愛いものではないのだろう。現に、冷めた声が耳を突いてきた。
「何?じゃあ、ヤられたかった訳?」
何て直球すぎる事だろうか。彼の言った事に、ふっと笑みを零す。私がここに居るのなら、彼もまた然り。
「ヤりたいの間違いなんじゃないですか?こんな所に突っ立って」
現在地、ラブホ街。真昼間。時間も時間だからか、閑散としたこの場所。
彼はただ一人ここに突っ立って、血を眺めていたから私は声を掛けたのだ。先も言ったように興味が湧いて。
彼は表情一つ変えない。長い前髪の奥の瞳には色すらなかった。
「女子高生、あんまりおにーさん煽っちゃ駄目だよ。食べられちゃうよ」
冗談でも、脅しでもない、本気。無表情だから余計にそう思うのだ。
思わず私は口元に弧を描いた。描かざるを得なかった。
「――包帯、巻いてあげますね」


