振り向けば彼は被りかけていたヘルメットを手元に下ろしていて、つまらなさそうに手でそれを弄んでいた。

勿論、常日頃から無表情なのでつまらないのかどうかなど分からない。ただ、私に言った。


「その感じ、外見と中身一致してんじゃん。ずっとそうしてればいいのに」


ずっとなんて、想像するだけで無理だ。出来る筈がない。出来てしまったのなら私はいよいよ身動きが取れなくなるだろう。だから、


「嫌です。これ、家用のいい子ちゃん顔なので」

「ああ、確かに、母親に嫌悪抱いている子供がする態度じゃないね」


言われて、何の事か分からなかった。だが、それも少しだけで理解はすぐにできた。さっきの聞いてもらった一個の話の内容だ。彼は少し勘違いしているらしい。


「違いますよ。確かにあの事に関しては気持ち悪いし嫌悪を抱いてますが、それとこれとは別です」


ニッコリ笑って彼の顔を上目遣い気味に覗き込んだ。


「私、家族大好きですよ。ママも、パパも。――おやすみなさい」


何も変化がない彼に構わず背を向け、扉に手を掛けた。ガチャっと金属音に混じって届く声。


「――……一個だけ教えてあげる。皆、俺が手首切ってる所目の当たりにしたら離れていくよ」


また何の事か分からなかったけど、時間差の答えだろう。

『何人それで女の子を勘違いさせて来たんですか?』と言うこの問いへの。

そして、私への警告でもあるのだろう。そんな事、ないのに。そんな事、とるに足らない事なのに、だって彼は誰よりも私を私として見てくれるのだから。