思わずドキリとしたのは事実なので認めるしかないものの、彼を見れば一々過敏になってる自分が滑稽に思えた。

そんな甘いとも取れるセリフでも、彼は微笑みを浮かべてくれることはない。よくもまあ、そんな表情で言えたものだ。


「透佳さんって、平気で口説くような言葉吐きますよね」

「思った事そのまま言っただけ」

「何人それで女の子を勘違いさせて来たんですか?」

「さあね」


さっさと会話をぶったぎり、私から視線を離し、開いていた雑誌のページを閉じて立ち上がった。

何処に行くのかと見守っていれば、テーブルに置いてあった財布等、貴重品一式をポケットにねじ込み、今度は玄関に。

よくわからず、鞄を肩に掛けたまま立ち尽くす私に気づいたのか、半身を此方に向けた。


「帰るんなら、送ってあげるから早く外出たら?」


え、と声が出そうになったのは、意外な申し出だったために当然の現象だろう。彼なら何時だろうと、「帰る」と言えば適当な返事をするだけだと思っていたのだ。それがどうだ。


「……送ってくれるんですか?」

「ん。補導されると困るでしょ?」


どうやら一応心配に通ずる様な事はしてくれるらしい。ますますよく分からない人だ。

何かの合図のように、チャリッと軽い音が彼の手の内で響いた。