虚愛コレクション



宣戦布告のような言葉など何とも思っていないのか、何事もなかったかのように彼は私を押し退けて立ち上がった。どうやら、どうしても自分のペースを崩さないらしい。

無意識に唇を尖らせてしまう。つまらない、と。


「ご飯、食べなきゃね。アンタも食べる?」


ふと、そんな事を言って、足音すら立てずに部屋を移動し、此方を見た彼に遅れて返事を述べた。


「透佳さんがよければ……」


言われてみればご飯時なのだ。お腹は空腹を訴えてる気がする。

気がする。と曖昧になってしまうのは、それよりも、体が少しだるかったからだ。


「そう。俺も鬼じゃないからね、ついでに作ってあげる」


私の体の状態を知るはずもない彼は、どうやらご馳走してくれるらしく、半ば座り込むように小さな冷蔵庫の中を漁り始めた。

その後ろ姿を暫し眺めてしまう。四方に跳ねる黒い髪から覗く白い首筋、服に浮き上がる細い体のライン。


「……」


いつの間にか、観察するかのように見ていた自分に気付き、どうだっていいこの事実を誤魔化すかのように立ち上がった。


「私も手伝いますね」


後ろから声を掛ければ振り返り、彼は私を見上げた。いつも見上げているので何だか新鮮だ。

ややあって、抑揚なく疑うかのような言葉が発された。


「アンタ料理出来るの」

「人並みには出来ると思いますよ。女の子の嗜みです」

「ふぅん。じゃあ、これ切って」


と、そんな何てことはないやり取りのもと、晩御飯がもてなされた。