―
「えー……今日も帰れないの?」
「うん。ごめんね千代」
残念そうな声を上げる千代にそう言葉を返す。
「仕方ないよね」なんて千代は言いながら、鞄に教科書を詰める作業を再開する。私も同じようにしながらもチラリと教室の時計を見やる。
一秒一秒確実に時間を刻む秒針、今長い針が一分刻んだ。待ち合わせの時間までは十分あって、今からゆっくり歩けばそれなりに丁度いい時間にはつくだろうと計算していた。
今日は罪悪感等何もない。躊躇いもない。複雑な感情も消えた。あるのは小さな高揚だけ。足元から駆け上がるよな落ち着きのないそれ。
自分の都合が優先で自分ばかりが可愛い私は、今度はひたすらに彼を求めていた。先の事などなかったかのように。
先の感情など消え去ったように。
ご都合主義だ。
「千代、また明日ね?」
鞄を肩に掛けながら千代に声を掛ける。
「あ、うん!また明日ー!」
なんて、笑顔を見せながら手を振って来るのに対して、私も笑顔で振り返してみせた。


