「――……」


一瞬でその人に興味を抱いた。手首から流れ落ちる血を、ただ無表情に見ている彼に。

高校一年生の梅雨手前。どんよりした天気を背景に先に降り出したのは、血の雨。……なんて詩人のような事を脳内で考え、自分で笑った。馬鹿だな私。

前髪を一回撫で、笑みを作ってみせ、ファーストコンタクトを試みた。


「おにーさん。それ、リストカットですか?」


中々に長身の彼は私の問いに此方を見るでもなく、目を伏せがちにして流れる自分の血を一滴舐めた。

赤に赤が交わる。


「あーー……そう。掻きむしっちゃうの、良くないね」


私に投げ掛けてくれているのか、よく分からない感情のない言葉。手には、先まで巻いていたであろう、血の付いた包帯が握られていた。

傷口が開いたのだろうけれど、彼は表情一つ変えていない。痛くないのだろうか。と、思考を巡らせている間にも彼の手首からはダラリと血が流れた。


「女子高生、ハンカチとか持ってる?」

「……」


なんだ。私の事一回も見ないと思っていたけど、一応確認はしてたのか。

何となく、可愛くないと評判の制服のスカートを払う。意味はない。

次いで、ハンカチをポケットから取り出した。