よくある話の中で苦しんで、よくある話の中で悲劇のヒロインであり続ける。
そうして、よくある話のように誰かに勇気づけられて前を向くのだ。
だけど、人の心が変わってしまう事は往々にしてある。
だから。
「――……ねぇ、神楽君。もしこんな私が嫌になったら……!!」
そう言いかけた時に遮るように着信が鳴り響いた。
驚いて慌てて携帯を取り出して画面を見る。
「千代……」
ポツリと、呟いて神楽君の顔を見れば何も言う事もなくそれを皮切りのように立ち上がってしまう。
午後からの授業をさぼってしまっているからその電話だろうか。と予測し、出ない訳にも行かないと画面に手を置く。
「もしもし?」
『あ!祈!?早退したの!?大丈夫!?』
「……」
ああ、そうだ。千代は純粋なまでに私を心配してくれるようないい子なのだ。
千代こそが良い子であるのだ。少しだけ笑って、返答を零す。
「ううん、違うよサボり」


