勢いまかせに吐き出した言葉に対してしまったと言いたげにはっとしたように目を見開き、次いであ、と。声が一音漏れて神楽君の視線は一度私から離れて鈴を追った。

しかしそれも一瞬で、次いで表情は俯くことによって隠されてしまう。

隠してしまいたかったのは何だったのか。


「はっ……ははっ……、あーーあ、何でこんな安い挑発乗っちゃうかなぁ……」


後悔するように、独り呟いて私から手を放して地面に手を落とす。

動揺を隠すように一つ大きくため息を吐き出して取り繕うのを諦めたかのように、また話を始める。


「……祈ちゃんの邪魔をした理由に嘘はなかった。そもそも、祈ちゃんの言う通り、僕が黙ってればいいだけだったから、邪魔をする気なんてなかった……筈だったのに」


“許せなくなった”

と、かすれた声で静かに告げる。

それは自らの罪を告白するかのようだった。


「あの人が悪い訳じゃないのは理解してるけど、それでも、あの人の不幸を願ってないと気が狂いそうだった。あの人が不幸であればあるほど自分が幸せだって思えたから。だって、こんな隠し事抱えるのは……っ」


“苦しい”“辛い”そう言いたかったのかもしれないけれど、徐々に小さくなっていった声ではそこまで辿りつきもしなかった。


「さっき言いかけてた誤魔化してた事は、これだよ。透佳さんにとって祈ちゃんと一緒に居るのが少しでも幸せだったのなら壊してしまいたかった。だって、あの人は特定の人と一緒になんていた事なかった」

「……」


もうそんな話は今更だった。

いい子の私だったのならば、きっと寄り添う言葉を掛けれただろうけれど、神楽君の前ではすべてが嘘くさい言葉に成り代わってしまう。

だから、追い打ちを掛けるように、仕返すように嫌味のようにこの言葉を投げかけるのだ。


「――そんなに苦しんで恨むくらいなら、もう全部諦めればよかったじゃない」


隠し事を守る事を。仲の良い家族である事すら。

なんて、そんな事が出来ない事だって分かっている。簡単に手放せていたのなら私だって苦しい思いを抱える事もなかったのだ。