ぽたぽたと雫が零れ落ちた先のコンクリートは、黒い斑点の染みを作っていく。
「今だって神楽君に頼らずに、千代とも距離を置いてって言ったのに、離れたくないなんて。……離れたくなかったって」
何て滑稽な姿だろうか。また、自分の自己愛が私の邪魔をした。
それが悔しくて、やるせなくて、自分自身に怒りが沸く。
どうやったって自分の心をコントロール出来なくて、綺麗に整理したって簡単にまたぐちゃぐちゃになってしまう。
「じゃあ、もういいじゃん。諦めなければ」
「っ!?」
そこに入り込むのは何とも自分勝手な言葉で、怒りすら湧き上がる。
そうさせたのは誰だったか分かっていない筈がない。
「っ~~!!何で、何でそんな事言うの……!?ずっと邪魔してたくせに!ずっと私から離そうとしてくせに!!そうしなければ私は……私は……っ!!」
違う。違う。神楽君を責めるのは駄目な事だ。
だけど、断ち切ろうとした途端引き止められるような言葉を掛けられるのは腹が立って仕方がない。結局私の滑稽さを嘲笑っているのか。
思わず掴まれていたままの腕を振り下ろしそうになって、一際大きな声と力強く籠った力と共に制止される。
「でも、それは間違いだったって自分でも思ってただろ!?」
「間違っていてもっ!!神楽君が目を瞑って知らない振りさえしてくれてたら!!何も言わなければ私は、私は変わらずに……!!」
違う違う違う。彼の好きな私ではなくなった事、それは必ずしも悪い事じゃなかった筈だ。
私自身だって疑問に思っていた現実が浮き彫りになって目を醒ます事が出来た。責めるのはお門違いなのだ。
それでも、ググッと力を込めてしまう。
吐き出してしまった怒りは私自身への怒りだったのかもしれない。
「神楽君の家は神楽君とお父さんが黙ってれば幸せな家族なんだから、それでよかったじゃない!!私がそんな事実に行きつく筈も無かった!」
「いいわけないだろ!?僕の気持ちなんて分からない癖に!!」
「分かるわけないじゃない!分かってほしいならちゃんと言えばいいじゃない!!」
これほどまでに自分勝手な言葉はあっただろうか。それは私に返ってくる言葉だ。分かってほしいと願いながら何一つだって口にした事はない。
神楽君も私にだけはきっと言われたくはなかっただろう。
怒りを表すようにまた、力が強く籠り私を押し返す。
いつも神楽君から聴こえてくる鈴の音が一際大きく鳴ったような気がした。
「じゃあ言ってやるよ!!さっき言おうとしてた事!!僕はあの人の事が憎くて憎くて仕方なかったんだ!!」
その鈴は簡単にポケットから滑り落ちてテトラポットに落ちて弾けた。


