ジクジクと脈打って、ぱっくりと開いた指先の傷からは血が溢れる。

彼が庇っても尚、私の指先を切り裂いたらしいそのカッターは無造作に床に転がっていた。


「痛い……いたい……っ、」


血を見ていると、溢れる涙。

不意に小学校の時の図工の授業を思い出す。誤って彫刻刀で指を切り裂いたくらいの傷と変わりない、大事にもならない傷。あの時も痛かったけれど、すぐに治って泣きもしなかった。

なのに今は痛くて痛くて仕方ない。

あの時我慢していたのが今になって流れ出たかと思う位に、ぽたぽたと頬を伝って落ちていく。

床に落ちた涙は彼が零した血と混ざって、赤を薄れさせていく。

こんなに泣いているのはいつ以来だろうか。暫く声を出して泣いていなかったような気さえする。


「――……痛いと泣くんだから、そうやって、もっときちんと泣けるようになった方がいいよ。アンタは」

「っ、っ~~!なんで……っ」


そんな優しさともとれてしまうような言葉をどうして私にかけてしまうのか。本当は彼は心の根っこでは優しい人だと思ってしまう。

でも、私は彼からの優しさなんてものは要らなかったのだ。彼だって私に優しさなどくれた事がない。でも、その優しさを私にくれると言う事はある意味では決別の意志なのかもしれない。

普通とは違う歪な関係の私たちだったのだから、終わり方に正しさなんてまるでないのだ。

そう思いながらも涙を流せば、堰き止めていた思いすら溢れて止めることが出来なくなる。

呼吸するたびに嫌でも言葉が形成されてしまう。


「わっ、私……透佳さんが好きなんです。誰よりも好き……」

「……ん」

「だから、納得できない。したくない……」

「世の中ちゃんと納得出来る事の方が少ないんだよ」


彼は言わないけれど、だからこそ、納得のいくように私の手にその武器を持たせたのだ。

でも、納得してしまったらそれこそこの気持ちを嘘にしてしまう。

彼にとってこの感情は偽物で、無意味な物だと知っていても、私だけは信じていたかった。私自身を、この関係を疑った時点で破綻を始めていたのだとしても。

なんて、そんな夢ばかりを見ていたのだ。