彼の言葉ははっきりと理解できる。いや、神楽君に突き付けられた時から明確に形を持って色々な事を理解し始めた。
この二人だけの世界、小さな部屋への第三者の介入。
盲目的だった私に見せた現実は、大きな事で、でも些細な事で。たった一つの小さな亀裂だった。
それが割れて崩れ始める。
だけど、そうだとしても怖い。怖いのだ。目を閉ざしてこの場所から動きたくない。
きっと、理解のある大人は言うのだろう。ここから出て現実にきちんと目を向けるのが正しいと。
でも、そんな正しさは要らない。間違いばかりだって、私は彼と出会ってから……
「……」
出会ってからいい方向に向かえていたのだろか。
「っ!!」
そんな事すら無意識に考えてしまう。バッと顔を上げて彼の顔を見れば当たり前にまだ彼は私の目の前にいる。
一瞬だけ私が今何処にいるのか分からなくなった。
彼は私と目を合わせて、何かを考えるように視線を少しだけずらしてまた見据える。
「ね、そんなに納得いかないなら俺を殺しなよ」
「え……?」
そうやって、彼は彼を崩さずに自らのペースで言葉を放つのだ。


