少し前のめりになるようにソファに突いていた手を取られて、バランスを崩しそうになり体勢を崩さないように身を少し引く。

彼はそれすらも気にせずに自らの手元まで私の手首を引いた。


「痕、残んなくてよかったね」


持たれた手首を追うように頭を僅かに上げる。


「あ、と……?」


するり、と細い指先で撫でられてビクリと体が反応する。くすぐったい。

けれど彼は、何かを確かめるようにまた撫でた。


「そう、あったでしょ。鬱血したような細い痕」

「!」


言われて思い当たるものはあった。目を覚ました時に自分の手首にあった、細く重なった線、青紫色した痕。

気にしていなかったのではなく、気にする余裕があの時になかった。

長袖で隠れるはずのその手首にあった痕を知っていると言うことは、


「あれやったの俺だよ」


つまりはそういう事なのだ。


「俺ね、物理的な束縛癖あるんだと思う。多分。あと、他にも色々」


するりと私から手を離す。

それ以上は何も語らない。でも、それだけでよかった。

繋ぎ止めたかった。その言葉の今がこれなのだから。