犬の匂い、犬臭い。それは何も動物の事を指している訳ではなかったのだ。

彼は今一度私に擦り寄るような仕草を見せて呼吸をする。


「ね、どんな事したの?高校生同士」

「違っ!何もしてないです!……って、え……?どうして……」


そんな的確に高校生同士だと言うのだ。と、言葉にはならない。


「神楽君。と一緒に居たんでしょ」


匂いで分かったのなら彼こそ動物みたいだ。

でも、そうじゃない。


「つい最近もアンタと手を繋いで歩いてる所見たんだよね」


と、そこからの憶測らしい。

これも彼だ。男女が一緒にいれば恋人と呼ぶような性質。


「よかったね、高校生の高校生らしい付き合いできて」

「……透佳さんはそれでもいいんですか?」

「俺はアンタにずっと言ってた筈だよ。俺と居てもアンタが望むようにはできないし、好きって言う気持ちも所詮は錯覚、俺はちゃんと分別は付けてるって」


ぐるりと視界が廻った気がした。

こんな事は何度も何度も言われていて、その度余裕ぶって切り返していたはずだ。


「それでも、私は透佳さんが好きなんです」


そうやって目を見て言っていた筈だ。

なのに映るのは彼の首元ばかり。