若い女の人と寄り添うように歩く自分の父親。
人の目を気にせず白昼堂々良い身分なものだ。いいや、この雑踏に紛れるからこそ堂々として居るのかもしれない。
私だって昼間に人混みに紛れて実感した。人は人の事を気にしない。歩いている人の顔を一々確認したりはしない。すれ違った人の顔など覚えもしないのだ。
「祈ちゃん?」
私が神楽君のずっと後ろを見て固まったからこそ、振り返る。
私の父親の顔など知っている筈も無いので黙認していたが、本当は叫びたくなった。
そうだ。知っている。私の父親は平気な顔して私のパパを演じるような人なのだ。
演じているのは嘘じゃないと神楽君は言った。それだって自分の一部だと。
なら、同じようにパパだって自分の一部だけしか私に向けていないのではないか。
駄目だ駄目だ駄目だ。潤い始めた心がまた、枯渇する。喉が乾く。満たされない満たされない満たされない。
悲しみが私を突き動かす。
「ねぇ、どうかした?」
こんな寂しさは埋まる。それだって私は実感した筈だ。
「……――神楽君、私と悪い事しよ?」


