しばらく背中の上下を行ったり来たりしていた手は唐突に止まる。


「祈ちゃんもしかして甘いの相当嫌いなんじゃねぇの?」

「そんな事は……」


無かったはずだ。甘いのは苦手だったけれどここ最近はその甘ったるさが癖にすらなっていた。そもそも、苦手にしても口に含んで吐き出したくなるなんて事は流石に無かったのだ。

それがどうだ今は。苦しくて目に涙すら溜まる。


「……もしかして、つわ」

「違う。変なこと言わないで」


噛みつくように否定を示せば、それ以上は触れるべきではないと判断したのかまた背中をさすってくれる。

こんなもの食べれはしないと、その場でその甘さを手放そうとした。

だが、それもまた神楽君によって阻止される。

クレープを握った手ごと握られて、ぐっと体を近づけてきたのが分かった。


「――……さっきも言っただろ?演じるんだよ」


嘘じゃないから、と。囁くように促す。行儀悪く捨て去ろうとした私を繋ぎ止める。