昨日の今日で学校なんてものに行きたくなかった。けれど休んで家にいるなんてこともしたくなかった。

サボるなんて事をする勇気もない。だって、まだ私は“良い子”である筈なのだから。

気が進まない思いを押しつぶして、押し殺して、辿りついた教室の前に立ち尽くす。

扉を開けようとする手が重い。心臓がバクバクと嫌な音を立てる。

何を恐れていると言うのか、何も恐れる事なんて無い筈だ。


「いーのりちゃん」

「っ」


やけに機嫌がいいような声色が私を呼び止めた。

ゆっくりゆっくり首を声がした方に向ければ、人懐っこいような笑顔を浮かべた神楽君で、昨日の事など何もなかったかのようにすら思えた。

昨日の事は夢だったのかとすら思いたくなった。でも知っている、私は夢などみない。


「お、はよう。神楽君」

「おはよー」


苦し紛れにいつものように挨拶をしてみても、心臓の嫌な鳴りは消えてくれなかった。